防犯意識が低かった私が考え方を変えたあの鍵

昔から新聞の人生相談欄を見るのが好きだった。あまり手のかからない、歳の割に物事を達観しているような子供だったのは、きっとそういう人生の世知辛さを新聞から学んでいたおかげなんだろうとは今になってわかることだ。

そんな私だけど、圧倒的に人生経験は足りていなかったので、耳年増な割に失敗はたくさんしてきた。家を選ぶときも、「住めば都」よね、なんてわかったような風で、今思えば何でそんな物件…と思うようなところを選んだりしていた。女性の一人暮らしなのだから、もっと慎重に選ぶべきだったのに…。やっぱり私は世間知らずのお嬢様にすぎなかったのだなと痛感したのである。

どうしてそう思ったかというと、最初に一人暮らしを始めたアパートで、私はとんでもない目に遭ったからだ。鈍感な私は、どうして冷蔵庫に入れておいたアレがなくなっているんだろう…とか、あそこに置いておいたはずのコレがどうしてここにあるんだろう…とか何となく感じてはいたものの、あまり真剣に考えようとはしなかった。だけどある日、明らかに引き出しに入れておいたはずの現金がなくなっていることに気づいた。さすがに気味悪くなって両親に相談すると、「そこの部屋の鍵、引っ越しするときに替えてもらったの?」と聞かれた。私は当然前の住居人のときとは違う鍵だとばかり思っていたのだが、管理会社に尋ねてみたところ驚愕の事実が判明したのである。何とそのアパートの鍵、アパート建設以来一度も鍵を変えていないとのことだった。もしかしたら前の住居人が…?慌てて鍵を替えてもらったのだが、それ以降気持ち悪いことはピタリと治まったのである。警察に相談したのだが、結局犯人は今でも捕まっていないままだ。それ以来、私は引っ越しをするたびに自腹でも鍵を替えることにしている。防犯意識が低かった私が考え方を変えたあの鍵、実は今でも自分への戒めのために捨てられずにいるのだった。